アラサー薬剤師@pharmbook93のブログ

一般の方向けに薬局や医療、健康に関する情報を発信!

薬の不足とその原因・皆さんへのお願い

最近、せき止めや痰切りの薬が不足しているという報道が目立っています。間違ってはいませんが、少し誤解されかねない内容の報道もありました。「最近になって始まった事ではない」という時期的な認識の不一致だけでなく、そのほかにもいくつか思うことがありますのでブログにしたいと思います!

 

目次

 

せき止め、痰切りだけじゃない!-薬全般の不足

 「せき止め」と「痰切り」の薬が大きく注目されていますが、他にも足りていない薬は沢山あります。抗菌薬(抗生物質)や胃腸薬、メンタルに使われる薬など、ここには記載できないほど様々な医薬品に影響が出ており、毎日のように状況が変化しています。

「薬全般が不足している」という状況を、分かりやすく伝えるための一例として、これらの薬が取り上げられる分には良いと思います。ただ、分かりやすさを追及するあまり、偏った、一部の薬が入手できないと認識されかねないような報道の仕方はしないでほしいと思います。後述しますが、一時的に使うような薬のほか、継続して使用するような薬でも不足し、入手が困難なものがあります。

 

 

ジェネリックが悪い?-不足原因の誤った認識

「どうして薬が不足しているのか」その原因を正しく伝えることで、偏った、一部の薬がないという誤解が解けると思います。多くの報道では『ジェネリック医薬品』(以下ジェネリック)そのものに原因があるというような、単純な説明がされてしまっていますが決してそうではありません。

ことの発端は2020年。ある製薬会社の薬によって、健康被害が生じたことにあります。その会社の薬に、まったく別の薬の成分が混入していたために被害が出てしまいました。これを機に他の製薬会社でも薬の製造工程が適切に行われているか検査、捜査が入りますが、それから立て続けに不適切な工程が発覚しました。最初の薬がジェネリックであったために、その信用が損なわれた経緯があります。

 

しかし「製造工程が適切かどうか」という点と、ジェネリックかどうか」という点はイコールではありません。実際、ジェネリックかどうかに関わらず、現在の流通・供給の状況は変動しており、もともとジェネリックではない先発医薬品を使用されていた方でも薬が不足するような状況です。

2020年の発覚から、3年以上の長きに渡って問題が続いている原因は、『ジェネリック』とは別にあります。それはコロナ禍世界情勢です。薬は日本国内に限らず、世界各国から薬そのものや、その材料を輸入して製造され、流通・供給されています。薬に限った話でありませんが、感染症への対策や戦争、紛争によって、これまでと同様にモノを入手することができなくなっています。

皆さんは覚えているでしょうか。新型コロナウイルスのワクチンを他国から入手しようとしていた時、国同士での交渉が行われていました。しかし、せっかく手に入れたワクチンが適切に保管されなかったり、身勝手に接種予約がキャンセルされてしまったりして、無駄に廃棄せざるを得ない問題がありました。医薬品は命にかかわる重要なモノで、それが今までのように製造、流通・供給されていない現状は、国際的な大きな問題です。ひとつの薬局・店舗で解決できるような問題ではありません。

 

 

皆さんへのお願い-必要な薬・代わりの薬

薬が不足しているために、代わりの薬をたくさん用意したり、まだかろうじてある在庫をいつもより多くしたりします。すると需要が急に増した分、製造が追いつかずにさらに薬が不足してしまうという悪循環が生まれています。この悪循環を解消するため、皆さんには下記のことをお願いしたいです。

 

1.軽度の風邪やケガなどで一時的な受診をする方

症状・状態に対して本当に必要な薬を、必要な日数(回数)で処方してもらってください。薬の内容を決めるのは医師の役割です。しかし、そのためには自分の症状・状態を正確に伝えることが大切です。『風邪』だからといって必ずしも、咳や痰(もしくは鼻水・鼻づまり)が生じるわけではありません。発熱、だるさ、吐き気といった症状ケガの場所や痛みの程度といった状態など、自分が今困っている、辛いことをしっかりと伝えることで、医師も必要な薬を、必要な量で処方しやすくなります。中には、常備したい薬や予防、備えとしての薬*1を余分に出してもらいたい方もいらっしゃるかもしれません。現在の薬が不足した状況を踏まえて、可能であれば控えていただくことをお願いします。

場合によっては、市販の、自分で購入できるような薬で対処できることもあります。受診しようか迷われた際には、ぜひ薬剤師にご相談ください!

 

2.以前から継続して受診されている方

薬のお渡し方法、変更に関する薬局からの説明を、よく聞いていただきたいと思います。定期的にもらっている薬が不足している場合、一部をお渡しして残りの不足分を後ほど送付(もしくは後日の受け取り)とさせていただくことがあります。また、薬の入手・納品の見通しが立たない場合には、代わりの薬=代替薬をお渡しすることがあります。そういった場合には、処方箋の確認や医師への問い合わせ、薬の手配に時間がかかることをご理解いただきたいです。

入手・納品の見通しが立たないような薬の場合、最初からその代替薬が処方箋に記載されていれば良いのですが、そうではない場合も少なくありません(私個人の体感としては、記載されていないことが大半です…)。医師の中には不足の状況が把握できていない、把握していても、ダメ元で処方箋に不足している薬を記載するケースがあります。そういったケースでは、処方箋の内容を変更する手続き(疑義照会)が必要で、薬局から医療機関、医師に問い合わせを行います。回答をいただくまでは薬をご用意することができず、時間がかかってしまうこともあります。

「なぜ医師の指示通りの薬を用意しないのか」

「医師が処方しているのだから不足していない、あるはずだ」

と思われる方がいますが、医療機関、医師でも状況が把握しきれないほど『薬不足』という問題は大きく、複雑になっています。薬を後からお渡しする、代わりの薬になるといった場合には、上記のような経緯、背景があることをご理解いただきたいと思います。

また、薬の成分は変わらずとも、製造会社、メーカーを変更するというケースもあります。同じ成分の薬を複数の会社が製造している場合、そのうちの1社の製造が停止することで他の会社にそのしわ寄せが生じ、他の会社の製造も間に合わなくなるという悪循環があるからです。これはジェネリックでも、そうではない先発医薬品でも、どちらでも生じている状況です。

ご希望の製造会社、メーカーのものが入手できないこともあります。特にこの状況は、お住いの地域やその薬局・店舗によって目まぐるしく変化しているので、その都度、薬局からの説明を受けてご対応をお願いします。

 

 

最後に

こんな雑多なブログを読んでくださり、ありがとうございます!日常業務の中で、今回のような問題・事情を患者さまへ説明しようにも、なかなか説明しきれない部分があり、ブログにしてみました。このような薬不足の状況はまだまだ終わりそうにありませんが、ぜひブログの内容を踏まえて薬局・薬剤師のことをもっと知っていただければ嬉しいです。

 

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*1:※原則として医師に処方される薬は、受診した時点での状態に適したものです。「風邪をひいた時に備えて出してもらう薬」よりも、症状が出た都度、受診してより適した薬を処方してもらいましょう。